エドワード親書 2024年3月号

2024年 春の雑感
 この世の中で起こるたいていのことは笑い飛ばしてしまうし、何とコメントしても何も変わらないだろうという思いから、ここには暫く書かないでいようと思っていたが、世の風潮とあまり離れすぎないように今の気持ちをやっぱり書いてみたくなった。これは独り言かな?

久しぶりに書いてみたくなったきっかけは何と。相対性理論、素粒子論、不確定性原理、宇宙論、反宇宙、など。
それが面白くなってしまってYoutubeを見てるうちに、ここを見てくださる方々がどう思っているか聞いてみたくなった。
「地球を外から眺める者があれば、地球の人間たちがしていることをどう思うだろう?」
と問いかければ、何と愚かなことをしているのか!と憤っておられるか?
宇宙の神秘の奥深さを思い描く人にとって、人間同士が領土を争って富を奪い合い殺し合っている今の世界、それは言葉にもしたくないほどの愚かさ!他星人がこの地球の様子を見たとすると笑うか、呆れるか、地球の終末を嘆くか?
しかし、今は世界中の多くの人たちが、自分たちの富を求め他国を支配しようとして覇権主義が広がってゆく世界情勢。これを仕方ないと諦めるか、それとも自国さえ強大になればと追随する人が多くなっているようだ。

いつも感じていたのだけど、世の多くの人の関心事と私自身の関心事が少しずれたままで生きてきたように思う。

僕は人間が好きだし、好きでありたいと願い、オペラを使っていろいろ試みてきたようだ。そのはっきりとした成果はすぐに見えなくても、それでいいのだと思いながら。

今世の中に必要なものは何だろう?夢や希望を膨らませ心も体も元気になることだろうか?
でもどうして、夢や希望をわざわざ改めて求めないではいられなくなってしまったんだろう?
自然界の生き物たちはそんなものを求めていなくても、見事に生き切ってゆくのにーー。
夢や希望。これは美しい言葉のようだが、本当は現実の生活の中にいっぱい楽しいことが溢れているのに、それに気づかないでいるだけなのでは?
もっと幸せになりたいと藻掻くから、反って幸せな気持ちが遠のいてゆくことに気付いているだろうか?

いったい人類はどこに向かおうとしているのか?
自然界から見たら、自滅の道を進もうとしているとしか見えないのでは?
今私たちに出来る一番大切なことは、第三次世界大戦をおこさせないために何が出来るかを考え行動することではないか?

ロシアのナワリヌイさんが生前こう言っていたらしい。
「悪がはびこるのは善人が何もしないからだ。」と。

何が正義で何が悪か、それは簡単には言えないことだが、少なくとも私は地球が好きで人間が好きだから、核戦争を引きがねとなる世界大戦をおこさせたくない、ステキな人間同士でいたい。

それにしても、平和への願いはどうしたら世界中に伝わり、本当に深い共感が広がってゆくのだろう?
多くの人が求めている平和って、平凡な生活の中に幸せを感じられる世界であること?
そうならいいが、そうはいかないようだ。

不安が募りだすと欲を募らせるのは人類史を考えれば疑いようのない事実だろう。
なぜ不安にならないといけないのか?
キリストは、野の鳥を見よ、彼らは自分たちの将来に不安を感じているのだろうか、と語った。
釈迦も、我欲が不安の大元だと。

さて我々芸術に携わっているつもりでいる者は、どんなことをどんな様に表現すればいいのか?
残念ながら、芸術界も我欲で競い合っているのが現状。


★★ 日比合作オペラ「赦し難きを赦す」メモ

日本の戦犯としてフィリピンのモンテンルパ刑務所に入れられていた死刑囚たちを、反日感情が大変な中、大統領の特赦で日本に返してくれたキリノという大統領がいたことを皆さんは知っているだろうか?彼の奥さんと3人の子供たちは日本軍に殺されたのだがーーー。
この新しいオペラの構想メモを残してみる。

≪序章≫

宇宙がどうして生まれたのか、宇宙のことはよくわかりません。
しかしこの地球が生まれたことは分かります。
そしていつしか人類が生まれたことも分かります。

この地球に人類が生まれてからどれだけの時間が流れたのでしょう?
火を持った人類は、今や核兵器を持つことを覚え、何をしようというのでしょう?

宇宙には、人類のような生命体が生まれた星々がきっとあることでしょうし、 この地球に生まれた人類もその一つでしょうが、そんな星々は生まれてはまた消えていっているようです。
そんな星々の生命体は今どうなっているのかわかりませんが、彼ら自身がその星を消滅させる方法を覚えてしまったとしたらどうなったでしょう?
そして今、この地球に生まれた人類は何をしようとしているのか?

人類の歴史を振り返ると、地球の各地では国が生まれ、強大な国を目指し争いの歴史。
殺し合いの歴史でしょうか?憎しみの連鎖が続いています!
それとも赦し合いの歴史?そんな人を思いやる心を持ち続けたいです!
貴方はどちらが好きですか?
憎しみにかられた貴方、きっと赦さないことでしょうーーー。
今、貴方に見えているものは、聞こえてくるものは?

日本が人類の歴史の中で何とか独立し続けることができたのは地理的なこともあるでしょうが、自然環境の恩恵を最も受けられて、島国として一歩離れながらも海外からのいろいろな文化を抱き留め、それを応用し発展させることができたのはなぜでしょう?
日本独自の多様で繊細な特殊性がここにあるように思います。
しかし第二次世界大戦から日本の状況は一変します。
戦争を起こすときに人類は必ず大義名分をかざしてはじめます。正義対正義の戦い。そしてたいていそれをリードするのは男性たち。
戦争は誰の責任か?国家?国家を支持しているのは誰か?結局国民一人一人の責任では?


あらすじ

序幕

天使たちと子どもの会話
貴方は許せますか?
赦せませんか?
赦したい、でも、赦せない?
いつかは許せるようになるのか?
やはり、死んでも許せるものか!

赦す赦さないって何を言い合っているのか?
赦す、赦せないって、人が決められることだろうか?

今も世界中で殺し合いをしているけど、それは何のためか?
自分を守るため?でも何から守るの?敵?敵って誰だろう?
それとも国を守るため?どこの国から守るのだろ?お隣の国とはなぜ殺し合わないと済まなくなるのかな?攻めてくる国の国民はなぜ軍人になったのだろう?
国って何のためにあるのか?いつできたのか?国は誰のためのものか?
国がなかったらどうなっただろう?

分からない、わからないー!僕たちには何もわからない。
どうしたらいい?何をしたらいい?

神様がいたとしたら、こんな人類は、いっそのこと核戦争でこの地球を御終いにしたいのか?

でも、あそこにあんな人がいる。
どんな人?
死にそうな人に手を差し出して抱き留めているーーー。
あっちにもいるよ。
よく見ると、あちこちにいっぱいいるね。ほら、ほら、あそこにも、あっちにも!

でもあの人、あの時は人を殺してた人だよ。
どうして、あんな優しい人になったのかな?
人間って、どうにでもなるんだね。
そう、悪魔にも天使にもなれる。

みんなが天使になれるといいねーー。
でも、どうやって天使になれるのかな?
そういえば、赤ん坊はみんな天使だね。
そうだよ、赤ん坊になればいいんだ!
赤ん坊?
赤ん坊にみんな戻れるかな?

だんだん知恵をつけて大人になっていって、赤ん坊から遠ざかって行っているみたいだけど、どんな知恵が幸せにしてくれるのだろう?
赤ん坊みたいに何も知らなくてももとから幸せなのに。
お母さんのおっぱいから育って、いろんな食べ物を探し出していく中で、知恵をつけていくのかな?
周りの国々やみんなと食べ物なんかを分かち合う知恵を身に付けていけばいいの?

分からない。
ワンガラナイ。

だけど、わかっていることがある。
世界中のみんなが優しい気持ちで生きてゆけるように何かしたい。この気持ち。 オペラで何かできるかな?
私に出来ることなんかないかな?
まあ、まずは歌い踊りながら、仲良く楽しくやってみようか?



★★★ 上記の台本を考えている時、2月10日に映画化を支援する目的で、何と愛をテーマにしたコンサートをしてみた。その感想文を添えてみる。

2月10日のコンサートのDVDを見直して、久しぶりに何か書いてみたくなりました。
これは出演者にだけではなく、鑑賞された方と鑑賞できなかった方に書いています。

今回は「忘れられた少年」の映画化支援コンサートとはいえ、愛、をテーマにした音楽会でした。
人間同士の男女の愛をヨーロッパの古典オペラから歌ってもらい、大自然への愛を感謝とともに歌い上げる「天空の町」、そして人類への愛を歌い上げた「忘れられた少年」、という構成でした。

欧州の古典オペラに中に自分の愛の思いを歌手たちは歌い上げていましたが、ほとんどが原語で字幕も使わなかったため、お客様は表現の細部までは感じ取るのは難しかったと思いますが、それでも歌手たちの精いっぱいの愛の気持ちをいくらかは感じ取っていただけたでしょうか?日本人の愛の表現とは違いがあるかもしれませんが、みんな西欧人になりきって自分の愛を歌い上げ、お客様に全力で届けようとしてくれていました。現在は世界がグローバル化し、日欧の違いがそれほどはっきり区別できるものではないかもしれませんが、日本人が西欧のオペラを歌い続けることはチャレンジとして有意義なものであり続けるのではないでしょうか?

歌劇「天空の町」については、日本人に本来あったであろう自然への感謝を歌い上げるべく作ったのですが、今回は20分足らずの時間内でどんな歌なのかを、出演者とお客様に親しんでいただきたいと今回のプログラムに入れました。西欧のオペラには愛憎入り乱れた人間模様が描かれることが多いのですが、自然への感謝を日本の歌手がうたいあげるならこんな歌劇を、と思って作りました。皆様はどんな思いでお聞きに、ご覧になられたでしょう?
私の音楽が皆様の心と響きあうものがあれば嬉しいです。

最後に当然ながら、オペラ「忘れられた少年」を黒い服だけで1時間にまとめて上演してみました。今までも何度かこの形で上演したことがあったのですが、それなりに効果をあげられたように思いましたので、今回もチャレンジしました。如何でしたか?
内容はほとんどそのままに短く作り上げましたが、使節たちの心の中はよく伝わったのではないかと指揮をしながら思いました。人は違う生き方をすることもありますが、優しい心で相手を受け入れる、これができれば今の世界情勢は全く変わるのではとさえ妄想したくなります。
また、マルチノ役が出られなくなって、磯村良さんに前日に依頼したにもかかわらず見事代役を演じきってくれた時には感謝しかなかったです。
やはりダブルキャストで公演すべきなのかと思いなおしたりしていました。

それぞれ、愛をテーマにしたものですが、出演者も鑑賞してくださった皆様も、それをどう受け止められたのかお聞きしたいところです。
愛とは相手を優しく思いやる心ではないか、とパンフレットに書きましたが、皆さんはどう思っていらしゃるでしょう?

“相手を優しく思いやる心”。 いま、それが世界中から消えゆくように見えます。
私たちの歌や音楽は、世界の平和に役立つのでしょうか?
コンサートに出演した歌手の皆さん、鑑賞してくださった皆さん、鑑賞できなくて遠くから見守ってくださった皆さん、どう思われますか?
諦めることなく何とかご一緒に頑張り続けたいですねーーーーーー。

オペラ「忘れられた少年」は映画化されます。
映画になると、どうなるでしょう?
このオペラで描かれた優しい心が、さらに世界に広がってくれるでしょうか?
人々を優しく思いやる皆さんの心からのご支援で、誰もの心が安らぐいい映画ができますよう!


   2024年3月17日

 石多エドワード